長年暮らした大阪を離れ、シンガポールへとやってきた2代目編集長マユ。
編集長としての業務の傍ら、ナイトライフシンガポール編集部の店「喫茶&スナック 夜間飛行」でも日々お客様を笑顔でお出迎えしている。
オーチャードロードの片隅にあるこの小さな店は、ドラマでいっぱいの玉手箱。
笑いあり涙ありの賑やかな日々を、2代目編集長マユの視点からお届けする。
このシリーズの前回記事↓
12月26日木曜日 晴れ。
今宵の夜間飛行は上昇気流有り、高度を上げて運行せり。
カランカランカラーン……
「あ、中島さん、おかえりなさ~い!」
「ただいま。ここで飲むのも今日で最後か、年明け早々日本へ帰国するからな。
元旦以外は営業するんだって?」
この地で7年を過ごした中島さんは毎週のように夜間飛行を訪れ、食事とお酒を楽しまれてきた常連さん。
その精悍な顔立ちと鍛えられた体型、近寄り難い威厳と色気を併せ持つ雰囲気は、私達スタッフだけでなく、部下の男性達からも憧れの存在であるに違いない。
そんな彼も、ついに1月から日本へ帰任する運びとなり、この日最後に顔を見せに来て下さったのだった。
「良かった、最後に中島さんのお顔が見れて……」
大ママが丁寧に作ったウイスキーソーダを、そっと差し出す。
「美味いね、大ママの顔見ながら飲めるのも今日が最後か。一回デートしときたかったなぁ」
「もう、最後なんて分かってるけど言わないで、涙が出ちゃうじゃない!
中島さんは毎週来て下さってたから、本当に色んなお話しましたよね。
帰国されたら寂しくなるなぁ……」
切なげな笑顔を浮かべて中島さんと話す大ママの横顔を見ながら、7月以来、私が見てきた大ママの出会いと別れをふと思い返していた。
毎週のように新しい出会いが訪れるなか、親しいお客様の帰任に心を痛め、思いがけない再会に喜びが弾ける。
すると私の脳裏に、3ヶ月ほど前の日の記憶が蘇った。
大ママから私達スタッフに、興奮した様子で連絡が入ったあの日のことだ。