ロマンチックな紳士淑女のためのシンガポール・ナイトライフ情報。グルメ、夜遊び、習い事、そしてあなたの夜を輝かせるもの全て。

【Ep. 9】お悩み:ローカル男性との結婚に幸せを感じられません

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切の関係がありません。

 

 

悩めるシンガポール在住者の前に、忽然と姿を表す場末のスナック、それが「夜間飛行」。

赤い布張りのソファに、古ぼけたミラーボール、そしてそれらを包み込む、懐かしい昭和の歌謡曲。

これは異世界? それとも幻?

時代に取り残されたようなその空間は今夜も、疲れた人々の心にそっと寄り添う……。

 

このシリーズの過去記事↓

 

 

 

「ねぇミユキ、楽しかった?」

 

 

「……うーん、まあね」

 

 

IONにある中華レストラン、インペリアル・トレジャーからの帰り道。

今夜もそこで、今月何回目かの、親戚との「ファミリーディナー」があったのだ。

中華系シンガポーリアンの夫は、私の返事の裏側に、ちゃんと不機嫌さを感じ取ってくれただろうか。

“あなたの親戚との食事なんか、楽しいわけないでしょ”という言外のメッセージを、ちゃんと受け取ってくれただろうか。

 

 

そんなわけ、ないよね。

 

 

頭の中でそんなことを考えながら、バレないようにため息をつく。

この国に来てからというもの、少しずつ少しずつ、自分が摩耗していっている気がする。

 

 

「ごめんジェイムズ、私、ちょっと一人で散歩してから帰るね」

 

 

「え、俺も一緒に散歩するよ」

 

 

「ううん、大丈夫。たまに一人でブラブラ、街を歩きたい気分なの」

 

 

「そっか。わかった。早めに帰るんだよ」

 

 

そう言ってジェイムスは、おとなしく帰路についてくれた。

新興住宅地にある私たちの新居は、MRTとLRTを乗り継ぎ、さらにバスに5分ほど揺られた先にある。

真新しいHDBはそこそこに気持ちがいいけれど、私はやっぱり、古くたって都心に近いコンドミニアムに住んでみたい。

日本人の友達が無邪気に、「どの辺に住んでるの?」と聞いてくる度に、心は重く沈むのだった。

 

 

私とジェイムズは、オーストラリア留学中に知り合った。

メルボルンの大学には、もっと格好いい男の子もたくさんいたけれど、私はジェイムズの優しさに夢中になったんだ。

お姫様扱いというものが一体どんなことを指すのか、身を以て教えてくれたのがジェイムズだった。

朝には朝食を作ってくれ、夜には念入りにマッサージをしてくれ、誕生日には高価なプレゼントを買ってくれる。

何も言わなくたって全て先回りしてやってくれる彼は、まさに運命の人に違いないと思った。

だから卒業と同時に彼にプロポーズされた時も、断るなんて選択肢は、一瞬足りとも頭をよぎることがなかった。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です