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【Ep. 4】お悩み:長年連れ添った妻への誕生日プレゼントが決まりません

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切の関係がありません。

 

 

悩めるシンガポール在住者の前に、忽然と姿を表す場末のスナック、それが「夜間飛行」。

赤い布張りのソファに、古ぼけたミラーボール、そしてそれらを包み込む、懐かしい昭和の歌謡曲。

これは異世界? それとも幻?

時代に取り残されたようなその空間は今夜も、疲れた人々の心にそっと寄り添う……。

 

 

このシリーズの過去記事↓

 

 

 

 

「お前、そろそろ50になるだろ」

 

 

俺がそう言うと、味噌汁を作る手を止め、妻の須磨子が振り向いた。

いつもの、朝の風景。須磨子はシンガポールに暮らす今でも毎朝、きちんとダシからとったうまい味噌汁を出してくれる。

 

 

「そうなの。いよいよ来たか! って感じよ」

 

 

口ではそう言っているが、キッチンに立つ後ろ姿はどう見ても50のそれではない。

年齢を重ねてもボディラインをキープしている須磨子のことを、俺は密かに自慢に思っている。

もっとも、そんなことを口にしたことはないが。

 

 

「何か欲しいものないのか?」

 

 

「ええー? 輝茂さんったら、どういう風の吹きまわし? いつものケーキだけで十分よ」

 

 

「でも、50って言ったら、節目だろ」

 

 

「今更そんなに大げさに祝うような年齢でもないじゃない」

 

 

「そうか?」

 

 

「そうよ。それよりあなた、コーヒーが冷めますよ」

 

 

そんな風にして会話はたち消えになったが、俺はすでに心に決めていた。

今年は何か、きちんとしたプレゼントを贈ってやろう、と。

結婚してからずっと、須磨子の誕生日には、会社帰りにケーキを買って帰るだけだった。

けれど、今年は少し違う祝い方をしたい。

 

 

その日の夜、俺はプレゼントの下見に出かけた。

と言っても、何かアテがあるというわけではない。

そもそも何をあげれば喜んでもらえるのか見当もつかないので、とりあえずヒントでも見つけられれば、と思ったのだ。

そして驚いた。

デパートひとつ覗いて回るだけで、こんなにたくさん候補が見つかるなんて!

 

 

最初に覗いた婦人服売り場では、「一着あると重宝しますよ」と、イブニングドレスを勧められた。

仕事柄、パーティーに夫婦でご招待いただくことも多いため、きっと活躍の機会を見つけるのはそう難しくないだろう。

いつもは和装で出席する須磨子が、きらびやかなイブニングドレスでパーティーに参加する様子を想像して、なんだかとても照れくさくなってしまった。

とりあえず、これは保留だ。

 

 

1階に入っているいくつかのブティックでは、見るものすべてが候補のようなものだった。

シンプルな装いが多い須磨子だが、スカーフをあげても上手に使いこなすだろう。

いや、ここはやはり王道の、バッグだろうか。

ノーブランドのバッグばかり使っているが、きっと周囲の奥さんたちに自慢できるようなバッグもひとつくらい欲しいことだろう。

 

 

それから、ジュエリー。思えば結婚指輪くらいしか、アクセサリーをプレゼントした記憶がなかった。

ショーケースの中で、ライトを浴びてきらきらと輝く宝石たちは、たしかに男の俺でもわかるくらいに明確な「特別な何か」を放っていた。

須磨子がそれを身につけている姿を想像すると、なんだか口元が緩んでしまう。

でも……でも、だ。

 

 

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