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【Ep. 17】お悩み:親の死に目に会えませんでした

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切の関係がありません。

 

 

悩めるシンガポール在住者の前に、忽然と姿を表す場末のスナック、それが「夜間飛行」。

赤い布張りのソファに、古ぼけたミラーボール、そしてそれらを包み込む、懐かしい昭和の歌謡曲。

これは異世界? それとも幻?

時代に取り残されたようなその空間は今夜も、疲れた人々の心にそっと寄り添う……。

 

このシリーズの過去記事↓

 

 

 

「アニキ、親父が……親父が……!」

 

 

滅多に来ない弟からの着信があった時、覚悟はしていたつもりだった。

けれど、その涙声を聞いた瞬間に、背筋がすうっと凍りつき、すぐには言葉を発することができなかった。

 

 

「……逝ったか」

 

 

「うう……うっ、ううっ……うあああああああ!!!」

 

 

電話から漏れる慟哭が、ひとりの部屋に響いた。

無言で唇を噛み締める。

脳というのはこんな時、妙に冷静になってしまうものらしい。

 

 

「一番早く帰れる便、取って帰るから」

 

 

「早く! 早く帰ってきてくれよぉ!!」

 

 

「わかった、わかったよ、なるべく早く帰る」

 

 

「……ううう……頼む……」

 

 

電話を切った後、まるで機械のようにいくつかの航空会社に電話をかけたが、すぐに手配できたのは翌朝の便だけだった。

深夜便も早朝便もさして変わらない、か。

そんなことを考えながら、弟に便名をメールする。

 

 

ああ、俺はこんな時、涙が出ないタイプなのか。

 

 

そんなことを思いながら、淡々と荷造りをする。

普段から出張が多い生活なので、荷造りは心得ていた。

しかし、ふと「喪服はどうしようか」と思った瞬間に、パッキングする手が止まってしまった。

先日の帰国の際、父と最後に交わした言葉を、思い出したからだ。

 

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