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【Ep. 12】お悩み:シンガポール人にうちのラーメンの良さを理解してもらえません

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切の関係がありません。

 

 

悩めるシンガポール在住者の前に、忽然と姿を表す場末のスナック、それが「夜間飛行」。

赤い布張りのソファに、古ぼけたミラーボール、そしてそれらを包み込む、懐かしい昭和の歌謡曲。

これは異世界? それとも幻?

時代に取り残されたようなその空間は今夜も、疲れた人々の心にそっと寄り添う……。

 

このシリーズの過去記事↓

 

 

 

シンガポールはラーメン激戦区だ。そんなことはわかって進出した。

けれど、こうも閑古鳥が鳴いていると、さすがに不安にならずにいられない。

 

 

俺はグツグツと音を立てる大鍋を見つめながら、ひとり物思いに耽っていた。

なぜだ。なぜうちのラーメンを、誰も食べに来ないのだ。

 

 

「おう、俊太郎」

 

 

「なんですか、龍さん」

 

 

「俺、ちょっくらビラ配り行ってくるわ」

 

 

「もう6時過ぎなんですから、お客さん、入ってくるかもしれませんよ」

 

 

「夕飯どきだからこそ行くんだろ。そしたらお前が対応しとけよ」

 

 

「はい」

 

 

人でごった返す目抜き通りを、エプロン姿のまま突き進む。いつものビラ配りスポットに落ち着くと、一人一人に対してチラシを配り始めた。

 

 

「龍麺でーす、よろしくお願いしまーす」

 

 

「ハロー、龍麺、プリーズ・カム!」

 

 

日本にいた頃はビラ配りなど、したことがなかった。

俺は職人なのだから、こんなことはしたくはないのだが、背に腹は変えられない。ようやくひとり立ち止まってくれたかと思うと、チラシを一瞥して、こう言った。

 

 

「龍麺?」

 

 

「はい、ジャパニーズ・ロブスター・ラーメンです。食べに来てみませんか?」

 

 

「ロブスターって言ったって、ちっちゃいベイビーロブスターでしょ?」

 

 

「はい、でも……れっきとしたロブスターですよ」

 

 

「悪いけど、高すぎるわ。こんな、プロウンミーみたいなものに、30ドルも出せないわよ」

 

 

「あ、あのう、普通のエビラーメンもありますよ。たったの15ドルです」

 

 

「高っ! それならプロウンミー食べた方がいいわよ!」

 

 

そうなのだ。うちの名物であるロブスターラーメンは、今のところ、シンガポールでは非常にウケが悪い。

どうしてもローカルフードのプロウンミーに似ているように見えてしまうらしく、ファンの獲得に苦戦し続けていた。

 

 

プロウンミーなら、安い店なら3ドルで食べられる。

うちのロブスターラーメンの、実に1/10だ。

しかも残念なことに、プロウンミーは俺が食べても、なかなかに美味い。

いや、正直に言おう、かなり美味い。

 

 

それでも、進出しちゃったんだ。これで勝負し切るしか、ないじゃないか。

 

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