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【Ep. 1】お悩み:付き合っていると思っていた男性が他の女性と結婚しました

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切の関係がありません。

 

 

悩めるシンガポール在住者の前に、忽然と姿を表す場末のスナック、それが「夜間飛行」。

赤い布張りのソファに、古ぼけたミラーボール、そしてそれらを包み込む、懐かしい昭和の歌謡曲。

これは異世界? それとも幻?

時代に取り残されたようなその空間は今夜も、疲れた人々の心にそっと寄り添う……。

 

 

 

 

 

「え、由香里ってば、俺たち付き合ってると思ってたの? 」

 

 

退社時間を過ぎ、誰もいなくなったオフィス。

悠之介はその爽やかな顔に、決まりの悪そうな表情を浮かべて呟いた。

彼は日本本社から派遣されてきている、うちの会社のホープだ。

幼少の頃をアメリカで過ごしたそうで、英語はペラペラ。

シンガポール支社に現地採用で働く私と彼は、公表こそしていないものの、国際派同士お似合いのカップルだったはずだ。

 

 

「付き合ってないとしたら、私、悠之介の何なわけ?」

 

 

「いや……大事な人、であることに変わりはないよ」

 

 

「じゃあなんで! なんでアナタ、いきなり帰国して結婚することになってんのッ?!」

 

 

口にした途端、わっと涙が溢れてきてしまった。

思わず視線を逸らし、窓の外を睨みつける。

シンガポールにしては珍しい、泣き出しそうな、夕焼け。

 

 

「言わなかったっけ? 俺、日本に、ずっと付き合ってる子、いるんだよ」

 

 

「ふざけないでよ……」

 

 

「うわぁ、これ、もしかして修羅場ってやつ? 困ったなぁ」

 

 

「困ってるのはこっちの方よ!!」

 

 

唇を噛みながら、悠之介の方を向き直り、睨みつける私。

 

 

「おー怖。だからやなんだよね、海外とか住んでる女子」

 

 

見たことがないような冷ややかな表情で、悠之介が続けた。

 

 

「俺さ、けっこう中身、日本人なわけ。だから大和撫子的な、優しい子が好きなんだよ。海外にいる日本人女性って、たくましすぎて、やっぱ無理。そもそも俺、別に由香里と付き合うなんて言ってないじゃん? なんの約束もない、気軽ないい関係だったはずだよ」

 

 

「……でも私ずっと、あなたのご飯作ったりしてきた……」

 

 

「え、だって、由香里も食べるでしょ、ご飯は。ついでに作ってもらっただけじゃん?」

 

 

少し童顔で、いかにも優しそうな、悠之介の顔。

その下に隠されていた冷たさに、初めて気づく。

いたたまれなくなって飛び出すと、ヒールのまま、行き先も決めずにただ走った。

 

 

 

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