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【Ep. 9】駐妻・理乃の達観そして美しい夜

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。

そして親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになる。

屈託のない笑顔で夢を語るダリル。

それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

「書くこと」が大好きだった、理乃は新たな創作活動を始める。

嫁姑の関係は悪化の一途を辿り、なんと理乃は義母から殴りかかられるという驚愕の事態に発展するのであった。

 

 

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「びっくりしちゃった……。大したことなくてよかった…… 」

 

 

華子がため息交じりに、吐き出した言葉には安堵と怒りが混ざっていた。

理乃はちょっと微笑んで、華子を見つめる。

大きくて綺麗な百合の花が、傍にある小さな棚の上で、湾曲した花瓶の中からまっすぐに花を咲かせていた。

病院のベットにお世話になるのは、高校生の頃通学途中に自転車で転び、右足を骨折して以来のことだ。

 

 

「来てくれてありがとう。そしてこんなに綺麗なお花まで……」

 

 

理乃は感情的になった義理の母、佐和子に鈍器で頭を殴られ意識を失ったのだ 。

意識を取り戻した瞬間に見たのは、心配そうに覗き込む夫、祐介の姿と、隣で泣きじゃくる佐和子の姿だった。

意識を失った理乃を見て佐和子がパニックになり、仕事中の祐介に電話をかけたらしい。

脳震盪というのは、一見軽いものに見えても、バカにできない。

何事もないように見えも実は脳が損傷していて、後から重大な障害を引き起こす可能性がないとも限らないのだ。

祐介に説得され、理乃は大事をとって病院に一日検査入院することになった。

 

 

「で、お義母さんは、今どこにいるの?」

 

「今は……うちにいるの。今夜には義理のお父様が、日本からシンガポールで飛んで来てくださって、お義母様を連れて帰ってくださるそうよ」

 

「いったいどうしてこんなことに……」

 

「更年期障害ですって 」

 

「警察には言ったの? ポリスレポートは出した?」

 

 

静かに首を振る理乃を見て、いつもは冷静な華子が語気を荒げる。

 

 

「ちょっと、理乃! これは傷害事件よ! アナタ打ち所が悪かったら死んでいたかもしれないのに!」

 

 

理乃の義母は、重度の更年期障害の真っ只中だった。

更年期障害と一口に行っても、症状には様々なものがあるし、本人の元々持っている気質や性格によっても大きく変わってくる。

佐和子の場合は、躁鬱と攻撃性が顕著に現れていたらしい。

佐和子の夫、つまり理乃の義理の父も実は佐和子のことを大分持て余し、シンガポールで少し気分転換でもすれば状況が改善するかもしれないという期待を込めて佐和子を一人でこの地に旅行させたのだ。

 

 

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