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【Ep. 8】駐妻・理乃の現実、そして動き出した物語

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。

そして親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになる。

屈託のない笑顔で夢を語るダリル。

それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

「書くこと」が大好きだった、理乃は新たな創作活動を始める。

同時にひょんなことからダリルが美女と並んで歩いている場面に遭遇し、ショックを受けるのだが……。

 

 

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華子は、体にフィットする黒いタンクトップとスリムジーンズでリャンコートにあるStarbucksに颯爽と現れた。

彼女がどんなにカジュアルな服を来てもどこか目立ってしまうのは、いつもピンと伸びた背筋と日本人離れした足の長させいだろうか。

 

 

「いきなり呼び出してしまってごめんね……」

 

 

ダリルと“幼馴染”の美女が一緒に歩いているのを見てしまった理乃が、とっさに携帯を取り出して電話したのは、親友の華子だった。

 

 

「好きな男が 他の女性がいるところを目撃してパニックになった、ですってね。うん、そういう時は私に電話をかけてくるのが確かに正しいわ? 女友達はこういう時のためにいるんですもの」

 

 

華子のちょっと皮肉っぽい、でも優しさのこもったユーモアに理乃はいつも助けられている。

 

 

「で、本当に彼らは付き合ってるの? それともそれって……理乃の単なる思い込み?」

 

「わからない。でもすごく……すごくお似合いだったの」

 

「ちょっと理乃ったら。見た目がお似合いだからって、それなんの証拠にもなってないじゃない」

 

「そうだけど……」

 

「私は、彼らは本当にただの仲のいい幼馴染なんだと思うわよ。シンガポール人って、日本人より断然、男女の友情が成立するっていう考え方の人が多いのよ」

 

「……そうなの?」

 

「そうよ。だから、男女が一緒に歩いていただけで、付き合ってる? なんて勘ぐったら、正直ダサいわよ」

 

 

確かにそうかもしれない。ダリルが他の女性と歩いているのを見ただけでパニックになって、華子をわざわざ呼び出してしまった。自分の衝動的な行動が今となっては、恥ずかしい。

 

 

「それに……」

 

 

トールサイズのコーヒーのカップからそっと口を離し 、華子は続けた。

 

 

「理乃は、結婚してるのよ? 旦那さんがいるの。もちろん旦那がいたって、他に好きな人ができることぐらいあるわよ。でもね、理乃が今こうやってダリル君との恋愛を楽しめているのも、理乃には家庭があって、祐介くんっていう守ってくれる人がいて……それで成り立っていることなのよ」

 

 

私は……私はこの状態を楽しんでいるのだろうか? 

確かに、この歳でこんな色恋沙汰に一喜一憂できる状況というのは、「旦那」という保険を持っている女の特権なのかもしれない。

 

 

「理乃。 これはエンターティメントなの。娯楽よ。映画や演劇と一緒で楽しむものなの。でも……本気になっちゃダメなのよ。絶対にダメ」

 

 

そういった、華子が表情が少しだけ曇る。ホットコーヒーを持ち上げる手と綺麗に塗られたワインレッドの爪がかすかに震えた。

 

 

「……って私が偉そうに言える立場じゃないんだけどね」

 

 

そういって、弱々しく笑う華子を、理乃は驚きの目で見つめた。

 

 

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