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【Ep. 7】駐妻・理乃の想いそして予想外の出来事

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。

そして親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになる。

屈託のない笑顔で夢を語るダリル。

それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

「書くこと」が大好きだった、理乃は新たな創作活動を始める。

そんな中、突然ダリルから水泳レッスンをキャンセルする電話がかかってくる。

 

 

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ダリルの切羽詰まった声が、まだ理乃の耳に残っている。

電話が切れてからしばらくしても 何も手につかなかった。

あんなに慌てた感じのダリルの声は初めて聞いたから。

きっと、何か大変なことが起こったのね……身内に不幸でもあったのかしら。

気が気じゃないけれど、だからと言ってどうすることもできない。

理乃は、ため息をついて、何とかダリルのことを頭から振り払おうとした。

そんな時には……そうだ。

理乃は、おもむろにダイニングテーブルの上のパソコンを開いた。

 

 

「……書こう」

 

 

あれから、空いた時間には自然とパソコンに向かうようになっていた。

書くこと。

それは、理乃を全ての苦悩から解放してくれる魔法の道具だ。

自分が創り出すもう一つの世界。

現実とファンタジーの狭間が織りなす、どこにも属さない その瞬間を紡ぎ出すのが理乃は大好きだ。

翌日も、その翌日も。

理乃はひたすらパソコンに向かって書き続けた。

まるで何かに取り憑かれたように。

自分の中に長年溜め込んできた、「何か」が指先を介して外の世界に溢れ出ていくようだった。

 

 

プルルル……

 

 

突然の電話の着信音が、一心不乱に指を動かす理乃を一瞬で現実の世界に引き戻す 。

 

 

ダリル……

 

 

画面に光る彼の名前を見た瞬間、心拍数が急上昇するのを感じる 。

 

 

「……もしもし」

 

 

恐る恐る話しかける電話の向こう側で、いつもの明るい声が理乃の体を包む。

 

 

「ハロー、理乃。ダリルだよ! 昨日の レッスン、突然キャンセルにしてしまって本当にごめん!」

 

 

元気そうなダリルの声。そういつものあの声。理乃は、思わず足の力が抜けてしまいそうだった。

 

 

「ダリル…… よかった、元気そうで。ずいぶん心配したのよ。大丈夫なの?何があったの?」

 

 

いけないと思いながらも、心配が先に立って軽く問い詰め口調になってしまう。

 

 

「いやぁ、実は突然病院から電話があってさ。今すぐ きてください、なんて言われて」

 

「えっ? 病院?」

 

「実は俺の幼馴染が、交通事故にあって救急車で運ばれて。パニック状態で俺の名前を何度も呼んだらしくてさ。それで、病院から連絡があったってわけ。あのあと急いで病院に行って今まで付き添ってたんだ。結局全然命に別状はなくて…… まぁ、腕の骨は2本ほど折れちゃってたけどね」

 

「まぁ、大変! そういうことだったのね……お友達、無事で本当によかったわね」

 

「本当に、無事でよかったよ。じゃぁ、次のレッスンで!」

 

 

なんとなく、ダリルがそっけない気がしたのは……ううん、きっと気のせいだろう。

電話を切った後、ふっとこみ上げてきた寂しさの置き所を求めて理乃は窓の外を見つめた。

神々しいほどの夕日が、窓枠の中でオレンジ色の光を放っている。

まるで動く絵画のように、紫色の雲が風に乗ってゆっくりと流れていく。

幼馴染のために、すぐに病院に駆けつけるダリルの優しさが眩しかった。

そして、緊急事態に遠慮なんてせずにダリルに連絡できるその「幼馴染」が、理乃は心底羨ましかった。

 

 

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