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【Ep. 6】駐妻・理乃の思い出、そして明るいはずの未来

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになった。屈託のない笑顔で夢を語るダリル。それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

 

 

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ここはBugisにある“Jiu Gong Ge Hotpot”。夫の祐介が会食で遅くなる日は自分も”外食デー“。

理乃はそう決めている。

「何かカーッとなるものが食べたい!」という、親友の華子のたっての希望で、火鍋を食べることになった。

匂いを嗅いだだけで汗が吹き出しそうな唐辛子スープに、肉、魚介類、野菜などいろんな具を入れて楽しむ激辛鍋は、クセになる美味しさだ。

 

 

「で、どうなの? 新しい彼氏とは?」

 

 

華子がわざとらしく声を潜める。

危うく、激辛スープにむせ返りそうになりながら、理乃はなんとか平静を装った。

二人でバスに乗って、ダイビングショップを訪れる……そんな小さな冒険を楽しんだあの日から、理乃とダリルは自然と毎日メッセージを送りあうようになっていた。

「メッセージ」といっても、本当に他愛のないやりとりだ。

ランチで何を食べたとか、新しくできたカフェにいったとか……そんな一行にも満たないようなやりとり。

でもiPhoneの画面に、彼からのメッセージ通知が来るのをみるたびに、もうどうしようもなく気持ちが高ぶってしまうのを、理乃は止められなかった。

 

 

「その表情から推測するに……どうやら、うまくいってるみたいね〜」

 

「もう華子ったら、からかうのはやめてよ!」

 

「やぁね。理乃もいい加減認めなさいよ。あなたは今、23歳のお肌ピッチピチの可愛い男の子と今、恋に落ちてるの……恋に落ちることができるって、素晴らしいことよ? ときめきはお金で買えるものじゃ無いしね 」

 

 

本当は、認めてしまいたい 。

ダリルのことが……好きだって。

でもダリルの存在が日に日に自分の中で大きくなっていく ことを認めてしまうと、何かもう取り返しのつかないことになるかもしれない。

漠然とした恐怖心が理乃の心を未だ捉えて離さなかった。

 

 

「……彼といると、なんだか自分がちっぽけになってしまった気がするの 」

 

「 どういう意味?」

 

 

華子は、怪訝そうに理乃を覗き込む。

 

 

「ダリルにはね、ダイビングインストラクターになるっていう夢があるんですって。夢を語るときの彼って、本当に瞳がキラキラしてて……自分の未来を……明るい未来をなんの疑いもなく信じていて、私、その圧倒的な可能性に怖気付いちゃうのよ……」

 

 

どうして、あの日 —   ダリルが、夢を語ってくれた日、あんなにも心がぎゅっと締め付けられてしまったんだろう。

 

 

「私には、夢なんてないもの。夢なんてずっと……昔に捨ててしまったんだもの……」

 

 

そういった瞬間 、なぜか理乃は一瞬泣きそうになってしまった。

 

 

「夢、ね…… 」

 

 

鍋の中に、2人分のエビを投入しながら、華子がつぶやく。

 

 

「じゃぁ、夢を捨ててしまう前の理乃は、どんな女の子だったの?」

 

 

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