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【Ep. 20】理乃の別れ、そして新たな旅立ち

 

 

「理乃さん、血液検査の結果が出ました。」

 

 

メガネをかけた日本人医師は、カルテから顔を上げずにさらりと言った。

その表情からは、何も読み取れない。

 

 

「先生……どこか悪いところでもあったんでしょうか?」

 

 

「まず、ひどい貧血ですね」

 

 

「あ、そうなんですね……」

 

 

「それから……理乃さん、最終月経はいつですか?」

 

 

最終月経?いきなりこの医者は何を言い出すんだろう。

 

 

「えっと、そういえば……少し遅れているかもしれません」

 

 

「なるほど……」

 

 

そこではじめて医師は顔を上げて、理乃をまっすぐに見つめた。

視線と視線がぶつかり合う。

 

 

「理乃さん、おめでとうございます。血液検査で、妊娠の陽性反応が出ています」

 

 

———

 

 

体中の血液が一瞬にして凍った。

 

 

妊娠……?私が……妊娠?!

 

 

ありありと思い出される。夫の祐介が嫌がる理乃を無理矢理押さえつけた、あの夜のこと。

今まで不妊で散々悩んでいたにもかかわらず、まさかあの一度で妊娠をするなんて……そんなことがあり得るのだろうか 。

 

 

「理乃……? 顔が真っ青よ! 大丈夫?!」

 

 

待合室に座って待っていてくれた華子が、驚いたように駆け寄ってくる。

きっと、私、今、死体のような顔をしているんだろうな……

親友の手が自分の肩を優しくさすった瞬間、理乃は泣き崩れた。

 

 

「……私……、私、妊娠したの……」

 

 

「えっ……」

 

 

自分でも、なんで泣いているのかわからなかった。

悲しいのか、嬉しいのか、判断がつきかねるほどの複雑な感情が胸に渦巻いて、その自分の感情に、圧倒されてしまいそうだった。

夫の祐介の顔と……、そしてダリルの顔が、脳裏に交互に浮かんでは消える。

 

 

華子がもう一度、優しく理乃の肩に手を置いた。

 

 

「おめでとう理乃」

 

 

華子は……全て分かってくれているんだろう。そう、理乃の声にできない気持ちさえも。

 

 

「これで、ハッピーエンドね」

 

 

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