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【Ep. 16】理乃の暗闇、そして人生を変える決断

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。

そして親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになる。

屈託のない笑顔で夢を語るダリル。

それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

「書くこと」が大好きだった、理乃は新たな創作活動を始める。

 

 

嫁姑の関係は悪化の一途を辿り、なんと理乃は義母から殴りかかられるという驚愕の事態に発展するのであった。

その事件の影響で入院することになった理乃に、ダリルから大きなお見舞いの花束が届く。

そこで、理乃はダリルの彼女に対する気持ちに気づくのだった。

チャイニーズイヤーのカウントダウンでお互いの気持ちを確かめあう二人。でも夫の祐介は、理乃に子作りをもう一度頑張ろうと言い出す。

 

 

さらには、ゴシップ大好きな駐在員妻、真美がダリルと理乃の関係を嗅ぎつける。逆にそれが理乃と、ダリルの心の絆を深めることになったのだが……そんな妻の異変を感じとった夫が逆に子作りに積極的になるにつれ、理乃の気持ちは冷めていくのだった。

そんな妻の姿に異変を感じる夫の祐介。ついには、無理やり妻を繋ぎとめようと、強硬手段に出るのだが……。

 

 

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身体に熱を感じて、ハッとした。

眩しい朝の光が、理乃の顔を斜めに横切っている。いつの間にか眠っていたらしい。

大きなダブルベットの上で寝返りを打つ。隣に寝ていたはずの祐介の姿はない。

もう仕事に出かけたのだろう。

 

理乃は、ゆっくりと体を起こしバスルームに入った。

冷たい大理石の床が裸足の足の裏に心地よかった。

洗面台の上に備え付けてある、大きな鏡を覗き込む。

 

 

「ひどい顔……」

 

 

理乃は思わず鏡の中の自分に向かって呟いた。

赤く腫れぼったい目と、むくんだ顔……両頬には涙の跡が一筋残っている。

私、昨夜泣きながらいつの間にか眠ってしまったんだわ……。

 

 

—————

 

祐介とは、最後がいつだったかさえ思い出せないぐらいだった。

不妊にひどく悩んでいた頃は、なんとか妊娠確率をあげたくて、よく夫に迫ったものだった。

それこそ、セクシーなランジェリーを着たり、滋養強壮にいいと言われるスッポン鍋を毎週出したり……。

そんな妻の姿に祐介もプレッシャーを感じると同時に辟易していたのだろう。

 

理乃が必死になればなるほど、祐介は妻の体に興味を示さなくなっていった。

夫に女性として見られていない、そんな屈辱を噛み締めているうちに、理乃にもいつしか諦めのような気持ちが芽生えたのはいうまでもない。

 

必死になればなるほど、なぜか物事はうまくいかなくなる。

そんな現実を受け入れた理乃は、ある日を境に「努力」をやめたのだった。

 

男女としてのトキメキはなくても、夫婦として仲が悪いわけではない。

祐介が、自分を妻として大切にしてくれていることはわかっていた。

夫婦関係とは、このようになっていくのがある意味自然なのかもしれない。

 

営みがなくなってから、数年。子供を諦めきれないが故に悩むこともあったが、夫婦関係がないこと自体に不満はなくなった。

このまま一生……ある意味穏やかに暮らしていくのも悪くないんじゃないか……そんな日常に麻痺していた理乃の心を激しく揺さぶったのが、ダリルとの出会いだった。

 

 

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