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【Ep. 13】駐妻・理乃の切なさ 、そして次なる段階への悟り

※この物語はフィクションです

 

27歳で結婚以来ずっと専業主婦だった理乃。

日系大手商社に勤める夫、祐介のシンガポール栄転に伴って、3年前この常夏の国に引っ越してきた。

出世頭の優しいエリート夫を持つ、模範的な「駐在員の妻」だったはずの彼女の運命は、あの日を境に音を立てて変わり始めた……。

 

(あらすじ)

誰もが羨むような専業主婦生活を謳歌していたはずの理乃だが、どこか心にぽっかりと空いた穴を抱えていた。

何年も前から望んでいるものの、子供に恵まれない。

真剣に向き合うことを避ける夫、お世辞にも良好とは言えない姑との関係。

そんな時、偶然にも自宅コンドミニアムのプールで、水泳インストラクターのダリルと出会う。

理乃は、ダリルに言葉では言い表せない運命的なものを感じてしまう。

そして親友の華子に進められるまま、ダリルに水泳レッスンを申し込み毎週顔を合わせるようになる。

屈託のない笑顔で夢を語るダリル。

それは理乃に過去の自分を思い出させるのだった。

「書くこと」が大好きだった、理乃は新たな創作活動を始める。

 

 

嫁姑の関係は悪化の一途を辿り、なんと理乃は義母から殴りかかられるという驚愕の事態に発展するのであった。

その事件の影響で入院することになった理乃に、ダリルから大きなお見舞いの花束が届く。

そこで、理乃はダリルの彼女に対する気持ちに気づくのだった。

チャイニーズイヤーのカウントダウンでお互いの気持ちを確かめあう二人。でも夫の祐介は、理乃に子作りをもう一度頑張ろうと言い出す。

 

 

さらには、ゴシップ大好きな駐在員妻、真美がダリルと理乃の関係を嗅ぎつける。逆にそれが理乃と、ダリルの心の絆を深めることになったのだが……。

 

 

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「最近、なんだか肌ツヤがいいね」

 

 

理乃は、ドキリとして、思わず箸を落としそうになった。

結婚して8年、夫の祐介の口からそんなセリフを聞いたことは一度もなかったからだ。

 

 

「『肌ツヤがいい』って表現、なんだかすごい……おじさんくさいわね」

 

 

思わず、笑ってしまった。同時になんとも言えない恐怖心が理乃を襲って来た。

そう、夫が普段言わないことを言う時。それは、妻の些細な変化を無意識で感じ取っている時……夫は自分の変化に気づいているのだろうか?

 

 

「ははは。俺、おじさんくさいかなー? いやー、なんて言ったらいいのかわかんないけど。うーん、生き生きしてるって言うのかな?」

 

「そう? ありがとう…… 不思議ね、別に何か特別なことがあったわけじゃないのよ……」

 

そう言った瞬間、うっすらとした罪悪感が理乃の胸の奥を掠めた。

別に特別なことがあったわけじゃないのよ……特別な出会いに正面衝突した自分が言うにしては、あまりにも切ないセリフだ。あるいはそう、それは「嘘」だ。

 

 

「そうか。はは、でもまぁ、自分の奥さんが幸せそうにしているのはいいことだよ」

 

「あはは。そうね……」

 

 

ふっと一瞬の沈黙が流れた後、祐介が口を開いた。

 

 

「で、考えてくれたの? 子作りの話……」

 

「え……?」

 

「もっかい頑張ってみようって話に……なってたじゃん」

 

「えぇ…… 覚えているわ」

 

「もっと喜んでくれるのかと思っていたよ。ずっと子供を欲しがっていたじゃん、理乃」

 

「そうね……」

 

「それで、俺があんまり乗り気じゃなくて……理乃が悩んでるときに、考えたくないからってその話題から逃げてたな、って。最近になって、まぁ、ちょっと反省したんだよね」

 

「いいのよ、そんな」

 

「いや、よくないだろ。だから反省したんだ。子供も諦める前に、もっと二人で何かできることがあるんじゃないか、って」

 

「そうね……ありがとう。でも……そんなに無理することもないんじゃないかしら」

 

 

自分で言ったそのセリフにびっくりしてしまった。

子作りに必死になっていたあの頃の自分からすると、考えられないことだ。

 

 

「子供はずっと……ずっと欲しかった。でも今になって思うの。子供が欲しかった理由って……子供がいなければ自分の存在価値がないような、そんな気分になってたからだって。でもそんな理由で子供を欲しがるって、何か違うと思うの」

 

 

祐介の、自分の見る目が……なんだか未確認生物をみたときのような表情だ。

 

 

「理乃……やっぱり、なんだか変わったね」

 

 

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