シンガポールのコールセンターで働くリョータは、29歳。
30歳を目前にして、彼は焦っていた。
「彼女いない歴=年齢」も、20代ならまだ可愛げがある。
しかし30代ともなるとさすがに悲壮感が漂う。30歳になるまでに、なんとか彼女を作りたい。
いや出来ることならむしろモテたい。モテてみたい。モテてモテて困ってみたい……!
そんなリョータが手にした一冊の本、それが藤沢数希著「ぼくは愛を証明しようと思う」だった。
この本に衝撃を受けた彼は、モテない人生にレボリューションを起こすべく、「ナンパ師」としてデビューを果たす。
この本によると、女性という生き物は、気になっている男に色々な「脈ありサイン」を送るものらしい。
そのサインを敏感に読み取って、適切に対応していくことが重要とのことだった。
前回の俺は、どの女性からも、全く脈ありサインを引き出せていなかった。
というかそもそも、脈ありサインがどういうものなのか、俺自身も今ひとつわかっていなかった。
本によると、脈ありサインには様々なものがあるらしい。
まず、女性から話を弾ませようとしてくれるというのがそのひとつだ。
「それ、どういうこと?」といったように、話をもっと詳しく聞きたがったりするのがそれらしい。
あとは、すごいものになると、目が「今すぐキスして」と言ってきたりもするという。
女の子にそんな風に見つめられたことがない俺は、それが一体どのような視線なのか、全く見当もつかなかった。
こんな感じだろうか。それともこんな感じだろうか。
鏡の前で幾度も再現を試みたが、途中から決定的な間違いに気づいてやめた。
俺が俺に脈ありサインを出してどうする。
やはり実際の女性の脈ありサインを見てみないことには、それに敏感になることもできないだろう。
というわけで俺は、3つ目の戦場、チャイナタウンにやって来た。
脈ありサインさえも読み取れない今の俺にできることと言えば、試行回数を増やすことのみ。
とにかく色々な女性に声をかけて、その「脈ありサイン」とやらを掴み取るのだ。