シンガポールのコールセンターで働くリョータは、29歳。
30歳を目前にして、彼は焦っていた。
「彼女いない歴=年齢」も、20代ならまだ可愛げがある。
しかし30代ともなるとさすがに悲壮感が漂う。30歳になるまでに、なんとか彼女を作りたい。
いや出来ることならむしろモテたい。モテてみたい。モテてモテて困ってみたい……!
そんなリョータが手にした一冊の本、それが藤沢数希著「ぼくは愛を証明しようと思う」だった。
この本に衝撃を受けた彼は、モテない人生にレボリューションを起こすべく、「ナンパ師」としてデビューを果たす。
ついに俺はノースイースト線最後の駅、ポンゴルに降り立った。
万感の思いを込めて、しっかりとホームを踏みしめる。
泣いても笑っても、この駅でナンパ修行の旅は最後。
目に浮かぶ走馬灯のような思い出をごしごしと振り切って、一歩一歩前へと進む。
するとウォーターウェイポイントへ向かう途中で、俺の携帯がメッセージの着信を知らせた。
【えへへ。後ろを見て!】
振り返るとそこには、先週Jalan Kayuでナンパに成功したあのエキゾチックなシンガポーリアン……ミシェルが、ローラそっくりの格好で佇んでいた。
「どうしたの、ミシェル?!」
「今日はポンゴルに来るって言ってたでしょ? ビックリさせようと思って、待ってたの」
待ってたの、ということは、こんな往来の激しい場所で、一日中俺を待っていたということなんだろうか。
ちょっとストーカーの気があるのかな、この子……。
「あ、ああ、そうだったんだ。会えて嬉しいよ」
「新しい髪型とお洋服、見てもらいたかったんだよね! 私に似てるって言ってたセレブリティに似せてみたんだけど、どうかな?」
「あ、ああ! ローラを意識したんだなって、すぐわかったよ」
「うふふ♡」
きっとYouTubeあたりで勉強したのだろう。
ローラそっくりの仕草で笑うと、ミシェルは俺の腕を取って歩き出した。
「今日は、アイスクリーム、食べに行こう! ここ、アンダーセンが入ってるの」