27/03/2018
シンガポールのコールセンターで働くリョータは、29歳。
この国に来て3年になるというのに、彼女ができる気配はない。
そもそも日本にいた時にもいなかったのだから、当然と言えば当然なのだが、30歳を目前にして彼は焦っていた。
「彼女いない歴=年齢」も、20代ならまだ可愛げがある。しかし30代ともなるとさすがに悲壮感が漂う。
30歳になるまでに、なんとか彼女を作りたい。
いや出来ることならむしろモテたい。モテてみたい。モテてモテて困ってみたい……!
リョータの溢れ出るリビドーはやがて、「ナンパ師」というまさかの方向性へと、彼を誘っていく。
ついにこのコーナーに足を踏み入れてしまった。
シンガポール高島屋にある紀伊国屋書店の、自己啓発セクションの、更にちょっと奥まった一角にあるこのコーナーに。
「モテる男の○○」だとか、「いい女を夢中にする■■」だとか、刺激的なタイトルが並ぶここは、いわゆる『男性向けモテ本コーナー』だ。
やましいことをしているわけでもないのに、レンタルビデオ店でえっちなDVDを借りようとしている時より恥ずかしい。
こんなところを会社の誰かに見られでもしたら、俺の大事な大事な就労ビザ・Sパスの枠を、来年からは用意してもらえなく……なるわけないか。
暴走し始めた思考をなだめるように、俺はひとつ大きな深呼吸をした。