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【Ep. 9】破産寸前!贅沢に慣れきった自営業夫婦の場合

※この物語はフィクションです

 

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

 

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

 

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

 

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

 

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

 

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

 

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

 

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

 

なんの役に立つのかって?

 

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

 

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……。

 

 
このシリーズの過去記事↓

 

 

 

俺は真田純一、55歳。

 

そして今、プールサイドで日焼けを楽しんでいるこの女性が、妻の久美、54歳だ。

 

シンガポールでこのコンドミニアムを借りて、もう1ヶ月近くになる。

 

 

ということはもうすでに、新潟にある自分のインテリアショップに「休暇のためしばらく閉店します」という旨の張り紙をしたきり、それくらいの日数が経っているということだ。

 

開業したばかりの頃は、地元には珍しく都会的なセンスの店ができたということで、なかなか繁盛していたんだ。

 

俺たちの生活ぶりは一気に成金のそれとなり、久美にもけっこうな贅沢をさせてやれたと思う。

 

 

しかし郊外に大きな家具チェーン店ができ、状況は一変した。

 

自分のところで扱っているような北欧家具が、1/3の値段で売られるようになったからだ。

 

なんとか客を取り戻そうとあらゆる手を尽くしてみたが、焼け石に水だった。

 

 

おまけに、一度上がった生活水準を下げることも、俺にはできなかった。

 

俺の成り上がりストーリーは、地元ではそれなりに美化されて語られており、みっともないところを見せられるような空気ではなかったんだ。

 

相変わらず後輩にオゴり、新車を乗り回し、久美にもそれなりの物を買い与え続けていくうちに……。

 

ついに、資金が尽きた。借金もこれ以上、できそうになかった。

 

 

ずいぶん悩んだが、うまい答えは出なかった。地元で恥を晒すのは嫌だから、どこかにひっそりと引っ越してやり直そうか。

 

それともいっそ、海に飛び込もうか……考えることに疲れた頃、久美が昔、何気なく言った一言を思い出した。

 

 

「純ちゃん、一回行きたいねぇ、シンガポール」

 

 

とにかく現状から逃げたかった俺は、最後の贅沢として、とりあえず金が尽きるまでシンガポールに滞在してみることに決めた。

 

そして店に休業の張り紙を貼り、逃げるようにしてこの国にやってきたんだ。

 

 

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