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【Ep. 6】誰にでもできる簡単な仕事?ベテラン「ハンドキャリー屋」の場合

※この物語はフィクションです

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

 

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

 

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

 

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

 

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

 

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

 

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

 

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

 

なんの役に立つのかって?

 

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

 

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……

 
このシリーズの過去記事↓

 

 

俺は三谷進、65歳。シンガポールとはかれこれ20年の付き合いになる。

 

ここに住んでいるわけじゃないんだが、週に3度は必ずここに来る。

 

そんな生活を、気づけばもう随分続けてきたよ。

 

 

ハンドキャリー屋って商売のこと、知ってるかい?

 

海外に何かを届ける時、普通に空輸するより、人間が飛行機でハンドキャリーした方がいい場合があるんだな。

 

そういうものを預かって、相手先まで届ける仕事があるのさ。

 

俺の場合は、築地の魚をメインに商売している。

 

魚っていうのは面白いものでな、魚そのものの質や捌き方もさることながら、どんな運ばれ方をしたかで、随分味が違ってくるものなんだよ。

 

鮮度や味にこだわる海外の寿司職人は、多少高くついたって、お客さんに最高のものを出したがる。

 

だから築地とシンガポールを往復する、俺のような商売に、需要があるってわけなんだ。

 

 

でもなぁ。いくら毎回飛行機をアップグレードしてもらえたって、そろそろ俺も体力的にきつくなってきたんだよ。

 

65だよ、65。

 

俺が忙しく海外と日本を行き来してる間に、カアちゃんなんか5人も俺の子供を産んで、勝手に育てて、勝手にみんな巣立っていきやがった。

 

そろそろ俺だってカアちゃんサービスするべきだろう。

 

 

それに……最近は、海外に魚を輸送する技術も、結構確立されてきてな。

 

ハンドキャリーにこだわらなくても、なかなかいい状態で空輸できるようになってきてるんだよ。

 

幕を引くには、いい時期ってことさ。

 

 

「……ご苦労さん。三谷のおっさん、元気でな」

 

 

馴染みの寿司職人のナベさんが、そう言って俺の肩を叩いてくれた。

 

俺は大抵、午後3時半頃にシンガポールに着く便で来て、いくつかの寿司屋に魚を届けた後、すぐに帰りの便に駆け込む。

 

ナベさんの店はいつも最初に立ち寄ることになっているから、ゆっくり話をすることなんてほとんどなかった。

 

だから長い付き合いも今日で最後とは言え、あっさりしたもんだ。

 

そもそも寿司職人ってやつは、客以外にはすこぶる愛想が悪いもんさ。

 

客にも愛想が悪い奴だってたまにいるけどな。

 

 

Comments (2)
  1. ぬこ より:

    感動しました。。
    どの話も面白いですね。

    楽しみにしています〜♪

    1. ナイトライフシンガポール編集部 より:

      ぬこ様

      ナイトライフシンガポール編集部です。コメントありがとうございます!励みになります。また遊びに来てください。

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