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【Ep. 5】投資家?ギャンブラー?仮想通貨「億り人」 の場合

※この物語はフィクションです

 

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

 

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

 

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

 

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

 

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

 

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

 

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

 

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

 

なんの役に立つのかって?

 

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

 

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……

 

 

このシリーズの過去記事↓

 

 

 

 

俺は三村光一、42歳。

 

職業は投資家だ。

 

株やFX、それから最近は仮想通貨など、結構色々なものに手を出してきた。

 

そして今俺は、シンガポールにいる。聞いて驚くなよ。実は、ここに移住しようと思ってるんだ。

 

 

 

物価が高いのはわかってるんだが、今の俺にとってそんなことは問題じゃない。

 

というのも、俺の持ってる仮想通貨……聞いたことがあるだろうか、「ポットデコイン」ってやつなんだが、それの価値がついに……1億円を超えたから、なんだよ。

 

そう、仮想通貨投資界隈で言うところの「億り人」ってやつの仲間入りをしてしまったんだ。

 

 

 

勘違いして欲しくないんだが、俺の所有するポットデコインの価値が1億円ってだけで、実際に俺が1億円を持

っているわけじゃない。

それでも、これを日本円に替えた瞬間に、すごい税金がかかってくるわけなんだ。

 

 

 

だから俺はそうする前に、海外に移住することにした。

 

シンガポールを選んだのは、税制が良かったからもあるが……なんとなく、億を稼いだ奴はシンガポールに移住する、ってイメージがあったからっていうのもある。

 

 

 

とりあえず今回の下見では、マリーナベイサンズに泊まることにした。

 

ルームサービスを頼み、1人シャンパンと生ハムで一息つく。

 

追加料金を支払って高層階指定にしただけあって、眼下にはシンガポールの素晴らしい夜景が広がっていた。

 

 

 

「俺は、これから、この国に住むのか……」

 

 

 

広い部屋に、俺の独り言が響いた。

 

正直なところ、なんの思い入れもない国だ。

 

そもそもここ数年はずっとチャートと睨めっこする生活を続けてきたし、これからもそうなのだろうから、今更どこの国に住もうと同じなのだろう。

 

そんなことを考えながら、何気なく携帯を覗き込んだ、その時だった。

 

 

 

……え?

 

 

 

夥しい数のアラートメッセージが表示されていた。

 

相場に何か、起こっている。

 

慌てて自分の使っている仮想通貨取引所のページにアクセスしようとするが、繋がらない。

 

別のサイトを開き、チャートをチェックする。

 

 

 

「う、嘘だろ……」

 

 

 

思わず、自分の目を疑った。

 

ポットデコインが、たった数分の間に、著しく値段を下げていたのだ。

 

取引所にアクセスしたくても、全く繋がらない。

 

 

 

なんということだ。

 

俺のポットデコインはすべてあの取引所のウォレットに入れてあるのに。

 

今のうちに別の通貨に替えておかなければ、大変なことになるのに……!

 

 

 

ようやく取引所に繋がったのは、それから数時間後のことだった。

 

ポットデコインにはどうやら、重大な欠陥が見つかったらしく、まさに落ちるナイフのように真っ逆さまに値段を下げていた。

 

 

 

ウォレットにアクセスして、別の通貨に両替しようとする。

 

しかしそこで出てきたメッセージを見て、俺は自分のツキが、一貫の終わりを迎えたことに気づいた。

 

 

 

“ただいま、ポットデコインの取引量が大変多くなっております。お客様のお取引は、72時間後に実行されます。ご了承ください。”

 

 

 

それはつまり、3日間もの間……ポットデコインが猛スピードで底値を更新していくのを、黙って見ているしかないということを意味していた。

 

俺は、終わった。3日後には、俺の1億円は、紙切れほどの価値も持たなくなっているだろう……。

 

 

 

ホテルの部屋から一歩も出ないまま、時間だけが過ぎていった。

 

1日目はまだ、チャートを確認する余裕があったが、2日目にはもう恐ろしくて携帯が触れなかった。

 

ひたすら映画チャンネルを観て過ごしたが、全く内容が頭に入ってこなかった。

 

3日目には、テレビをつけることさえ億劫になり、ひたすらベッドの上でブツブツと独り言を言って過ごしていた。

 

 

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