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【Ep. 21】守り神ミニマーライオンの場合 中編

※この物語はフィクションです

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

なんの役に立つのかって?

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……

<前編の続きです>

このシリーズの前編↓

私は加藤千恵美、39歳。

人から見たらきっと、相当なギャンブル好き……なんだろうな。シンガポールのカジノが好きで、3年前からこの国に通ってきてるの。

一応、そこそこに稼ぎはあるし、数年前には父の遺産も相続したのだけれど、この「趣味」のおかげで借金こそあれ、貯金はない。

わざわざシンガポールのカジノに来るのは、このホテルのカジノホスト、チェンさんのことが好きだから。

あくまで客とカジノホストの関係だけれど、笑顔が素敵なチェンさんに一目会いたくて、カジノ通いを続けているんだ。

何も期待なんかしてない。

ただ、会いたいだけ。

だって私は……私は、この年齢までひとりの男性にも愛されたことがないような人間だから。

その理由はおそらく、私の肌にある。

幼い頃から、私の顔は、いつもひどい湿疹でボロボロだった。

何が原因かは、今日に至るまでわかっていない。

顔面はいつも真っ赤で、ひび割れており、浸出液が滲んでいた。

もちろん顔だけでなく全身に症状が出ているのだけれど、やっぱり顔や手に出る症状が一番辛かった。

ひどい日には、顔が腫れ上がって、目も開けられないような状態になってしまう。

だから恋愛をすることなんて考えられなかったし、そもそもこんな私に言い寄ってきてくれる男性もいなかった。

ずっと孤独な人生が続いていくのだと思っていた。

でも3年ほど前、母との旅行がきっかけで訪れたセントーサ島のこのカジノで、私ははじめて、チェンさんという心の支えに出会ったんだ。

その日の私と母はツキにツイていて、あっという間に大量のチップが積み上がっていった。

そこでホテル側がハイローラーのエリアを薦めてくれたのだけれど、その時にエスコートしてくれたのが、カジノホストのチェンさんだったのだ。

こんなことを言ったら、頭がおかしいと思われるかもしれないけれど。彼が私たち母娘を見る目は、とても「普通」で……私は生まれて初めて、自分の顔の湿疹のことを忘れることができた。

まっすぐに私の目を見てくれるチェンさん。

彼は日本語にも堪能で、とても陽気に話してくれた。

でもそのエスコートといったら、まるでお嬢様に仕える執事のような丁重さで、私は……はじめて会った時から、胸がいっぱいだった。

去り際に彼は、誰一人として握ろうとしない、浸出液が滲むボロボロの私の手と、握手してくれた。

そして名刺をくれて、「シンガポールに来る時はいつでも連絡して」と言ってくれたのだ。

それから、私はずっと、彼に会いたいがためにシンガポール通いを続けている。

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