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【Ep. 13】シンガポールで干物を売る24歳の場合


※この物語はフィクションです

 

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

 

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

 

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

 

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

 

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

 

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

 

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

 

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

 

なんの役に立つのかって?

 

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

 

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……。

 

 

 このシリーズの過去記事

 

 

俺は角川圭輔、24歳。実家の干物屋を手伝って半年になる。

 

毎年、志摩丹デパートで北海道フェアをやってるの知ってるだろ?

 

俺んちこと「角川商店」もそこに出展中なんだ。

 

今回は俺がそのフェアの出展責任者を任されている。

 

まぁ、任されてるというよりは、無理やりもぎ取ったようなものなんだが。

 

 

親父は俺が北海道に帰ってくることに反対だった。

 

せっかく東京の大学にまで行ったんだから、なんて言うが、あんな5流大学、出ても出なくても大差なかったんじゃないかとさえ思う。

 

新卒でなんとか引っかかったのは、業界10番手くらいの食品メーカー。

 

入社して営業部に回されてからは、毎日レストランを巡ってハムを売り歩いた。

 

でもあんなの、頭をヘコヘコ下げて歩くだけの仕事だ。

 

ぶっちゃけ、俺じゃなくたってできる。

 

 

俺は、「俺にしかできない仕事」がしたかった。

 

2年であの会社を辞めて家業を手伝うことにしたのには、そういう理由があったからなんだ。

 

「干物屋の4代目」なんて、そこん家に生まれなくちゃなれないわけで。まさに「俺にしかできない仕事」って感じだし、それならハムの営業と違って頑張れる気がした。

 

ところが親父は未だに、俺が4代目を名乗ることに猛反対だった。

 

「いずれ家業を継ぎたい」と申し出ても、全く本気にしてくれないのだ。

 

 

そんな親父と毎日顔を見合わせているのは、正直気が滅入った。

 

だからこのフェアの責任者をやらせてくれって言ったんだ。

 

親父はいい顔をしなかったが、来てしまえばこっちのものだ。

 

売上は予想を大きく上回っていた。

 

これで親父も少しは俺を見直すことだろう。

 

催事の最終日は、すっかり顔なじみになった他の出展者たちと、居酒屋で打ち上げだった。

 

しこたま飲んだ後、他の出展者たちは「また来年!」と言いながらおのおののホテルへと戻っていった。

 

 

また来年、か。

 

ここに出展ここにしている人たちは確かに、毎回ほとんど決まったメンバーらしく、この北海道フェアに10年以上連続で参加している人も珍しくなかった。

 

きっと俺もこれから、あの人たちのような人生を送るのだろう。

 

北海道で、地元に根ざした商売をやり、時折こうして海外のフェアに出展する。

 

そしてまた北海道に帰っては、地元の友達に海外の土産話をして、次の出展までの時間を過ごすんだ。

 

 

「なんか、この先の人生、見えてきた気がするな……」

 

 

そんな独り言を呟いた、その時だった。

 

 

ぐぅぅぅぅぅ〜……

 

 

異様な空腹感が俺を襲った。

 

なんだなんだ、さっきたらふくホッケだのザンギだのを平らげたばっかりじゃないか!

 

なんだってこんなに急に、また腹が空いてくるんだ?

 

シメのラーメンみたいなものが、無性に食べたくて仕方がない。

 

 

キョロキョロと周囲を見回すと、ビルの谷間に屋台のようなものが見えた。

 

あそこならきっと、ラーメンはないにしたって、なんらかの麺類があるだろう……。

 

 

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