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【Ep. 11】一族のために。留まることを許されない超富裕層「パーペチュアル・トラベラー」の場合

※この物語はフィクションです

 

我輩はマーライオンである。そっちじゃない、小さい方だ。

 

そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。

 

俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。

 

一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。

 

そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。

 

はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。

 

俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。

 

人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。

 

なんの役に立つのかって?

 

いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。

 

おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……。

 
このシリーズの過去記事↓

 

 

俺は泉谷浩成、52歳。

 

名字で気づいた人もいるかもしれないが、俺は泉谷製薬を筆頭にあらゆる事業を手がけている、泉谷グループの創業一族の一人だ。

 

同族経営としては日本でも有数の規模だと思う。代々続く一族の資産を守るため、俺は若い頃からある役割を担わされてきた。

 

 

いわゆる、パーペチュアル・トラベラー(永遠の旅行者)という役割だ。

 

世界中のどこにも居住地を持たないパーペチュアル・トラベラーは、あらゆる租税を回避できる特殊な存在だ。

 

俺というパーペチュアル・トラベラーが一族に一人いるだけで、年間にして数十億円の節税になる。

 

あらゆる資産や収入が俺に紐づけられては、特殊なルートを辿って、一族の富としてプールされていく仕組みになっていた。

 

ただし、それを可能にするために、俺はひとつの国に年間1/2以上滞在することは許されない。

 

 

そして……一人の女性と長く一緒にいることも、許されないのだ。

 

俺は20代の頃からずっと、同じ女性と3年以上続けて交際したことがなかった。

 

それも一族の資産を守るために他ならない。

 

なぜなら、一定期間以上同じ女性と交際したり同棲したりした場合、「内縁の妻」としての権利が認められてしまうケースがあり、別れる際に財産分与を求められる可能性があるからだ。

 

一族から多くの資産や収入を紐付けられている俺にとって、それは許されないリスクだった。

 

ひとつの場所に留まることも、ひとりの女性に留まることも、許されない。

 

それが俺の人生だし、宿命というやつだと……疑うことなくそう、思っていた。

 

 

今回のシンガポールでの滞在先、リッツ・カールトンレジデンスは、オーチャードの喧騒から程よく離れていて心地よかった。

 

今回のシンガポール滞在は2 ヶ月の予定だった。

 

次はモナコ、次はカリブ海と、ほぼお決まりになったパターンで移動を繰り返していく。

 

人はこんな生活を豊かだと表現するのだろうが、ほんの少しの荷物を持って移動を繰り返す暮らしは、人を早く老けさせるに十分だった。

 

楽しかったのは30代までだ。今は金のかかる趣味にも興味はなく、恋人の涼子が作る日本食を肴に晩酌するのが、何よりの楽しみだった。

 

 

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