我輩はマーライオンである。
そっちじゃない、小さい方だ。
そう、観光客に大人気のあのでかいマーライオンの傍で、ショボく水を吐いている、ミニマーライオンである。
俺たちマーライオンには、それぞれシンガポールの守り神としての担当がある。
一番大きなセントーサのオジキは、シンガポール居住者担当。エースであるマーライオンパークのアニキは、観光客担当。
そして俺は、そのどちらにも属さない中途半端な人々、いわゆる『浮遊層』を担当している。
はっきり言って閑職だが、俺はこの『浮遊層』たちが大好きなんだ。
俺が守り神として使える魔法は、二つだけ。
人のお腹を瞬時に空かせることと、二日酔いを防ぐことだ。
なんの役に立つのかって? いやいや、これがどうして、なかなか役に立つものなのさ。
おや? 今宵も、愛すべき浮遊層が一人……
俺は小柳晃、48歳。福岡にある通販支援コンサルティングの会社で社長をしている。
いわゆる雇われ社長というやつだけれど、会社への愛着では誰にも負けないつもりだ。
顎に少しだけ生やしたヒゲと、天神の美容室で仕上げてもらっている流行りのパーマヘアが、俺のトレードマーク。
社員には、「福岡のトヨエツ」と呼ばせている。
俺が社長に就任してからというもの、会社の業績は良くて横這い、いやぶっちゃけ右肩下がりだ。
中には俺のやり方がワンパターンだとか、古いだとか、そんなやっかみを言う奴もいるが……俺は物事には勝ちパターンが存在すると思っているし、良い手法は古くならないと信じている。
会社の業績がふるわないのは、俺のせいではなく、むしろ市場が限られてしまっているせいだろう。
だから次の一手として俺は、シンガポール進出を目論んでいる。
半年に1回の視察を繰り返し、早3年。
もう既に半分進出したようなもの、と言っても過言ではないだろう。