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【Ep. 7】「アタシのパパになってくれない? 」と華は言った

それから俺は、急いでホテルを手配した。

中級ホテルのシングルルームだ。

不思議そうにしている彼女をひとりでそこに泊まらせると、自分は自宅に戻った。

そして翌日、彼女を尋ねて、こう言った。

「華ちゃん。俺が、本当の父親だとしたら。本当の父親と、シンガポールに来ているとしたら。何がしたい?」

「えー? 別に、観光とか興味ないよ」

「でも何か、食べたいものとか、行きたいところとか、あるだろう」

「そんなの気にしなくていいよ、お小遣いだけで」

「お小遣いは、あげない」

「ええええーっ!! ちょっと! 話違うんだけど!!」

「君のパパになるとは言ったけど、お小遣いをあげるとは言ってないだろ?」

「……うーん。まあ、ホテル取ってくれただけでも、助かったけど」

「お小遣いをあげる代わりに、今日は一日、君の好きなことに付き合うよ」

「……」

「君が行きたいところはどこにでも一緒に行く。食べたいものも一緒に食べる。本当の父親だと思ってわがままを言えばいい。でも君が嫌なら、俺はここで帰る。ホテルは明日まで取ってあるから、君が困ることは何もないだろう」

「……」

「どうする?」

「……なんで?」

「え?」

「なんで、こんなことしてくれるの? 全部アタシのためじゃん……佐野さん、得、しないじゃん」

「……得するよ」

「なんの得?」

「娘が日本にいてね。その子と一緒にいる気分になれる」

「……パパって普通、やらしい気持ちで女の子にご馳走するもんなんだよ」

「君を実の娘の代わりと思うことだって、ある意味十分やらしいよ」

「……」

「どうする?」

「……じゃあアタシ……ちょっと……ユニバーサルスタジオ、行きたい」

−−−

花火が終わり、集まっていた観客が立ち去り始めても、華はずっと上を見上げたままだった。閉じられた彼女の瞼から、とめどなく涙が溢れ続けていた。

そして彼女は、俺の方を見ないまま、消え入るような声で言った。

「佐野さん……パパって呼んでもいい?」

「いいよ」

やがて彼女は唇を動かしたが、俺を呼ぶ声は言葉にならなかった。

その代わりに漏れたのは嗚咽だった。

「……やっぱ佐野さんのことは、パパって呼べないや……」

きっと彼女は俺のことだけじゃなく、誰のことももう、パパと呼ばないだろう。

そんな気がして俺は、何も言わず微笑んだ。

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