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【Ep. 22】「いっそ裁かれたかったんです」と時枝は言った

※この物語はフィクションです

いつも違う美女と肩を並べているところを、よく目撃されるこの男性。

彼は佐野隆(さのたかし)41歳、日系ITコンサル会社のシンガポール現地法人社長だ。

いわゆる「マネージングダイレクター」と呼ばれる立場だが、実情は常に本社に気を使う中間管理職である。

本社との軋轢や、単身赴任の寂しさが醸し出す、独特の憂いと色気。

それが絶妙に美女の心をくすぐっているようだが……

彼自身は、どうやら全くそれに無自覚なようで。

このシリーズの過去記事↓

狭いシンガポールのこと、どこかのレストランで知人に会ってしまうことは珍しくない。

だから知り合いのMDの秘書である時枝さんを見かけた時も、いつものように挨拶をして通り過ぎるつもりだった。

……彼女が、泣いてさえいなければ。

「時枝さ……あ……」

声をかけたは良いものの、彼女の顔が涙に濡れていることに気づいて、つい言葉を失ってしまった。

俺に見られてしまった気恥ずかしさか、時枝さんもまた、一言も発さないままその店を出て行った。

そんな彼女から食事の誘いを受けたのは、それから一週間ほど経ったある日のことだった。

「ごめんなさい、佐野さん。わざわざお呼び立てして……」

「いえ、この前は、間が悪かったですよね。変なタイミングで声をおかけしてしまって、こちらの方こそ申し訳ないです」

「何をおっしゃいますか!  お気になさらないでください。むしろ、私の方こそ……すみませんでした」

時枝さんは、到底そうは見えないが、俺と同い年の41歳である。

シンガポール在住歴が長いというのに、我が強いところは一切なく、その穏やかさと仕事ぶりの評判はよく聞かされていた。

だからこんな柔和な女性が、泣くほど取り乱しているところを見て、俺も余計にうろたえてしまったのだ。

「佐野さん。本来なら、こんなお願いをする間柄ではないのは承知しています。でも私、あの日から……どうしても消化しきれない思いを抱えていまして。佐野さんに、思い切って、全て打ち明けさせていただきたいと思ったんです」

「こんな俺でよければ、いくらでも」

「お優しいですね、本当に……」

「いえ、俺は、こうして素敵な女性と食事ができるだけで、十分に役得だと思ってますから。ぜひ聞かせてください」

彼女はしばらく唇を閉じたまま何かを思案していたが、やがて決心がついたように、静かに語り出した。

「あの日、私、不倫関係を、清算したんです」

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