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【Ep. 20】「このワインを開ければ、懐かしい誰かに会える気がする……」とヒカルは言った

※この物語はフィクションです

いつも違う美女と肩を並べているところを、よく目撃されるこの男性。

彼は佐野隆(さのたかし)41歳、日系ITコンサル会社のシンガポール現地法人社長だ。

いわゆる「マネージングダイレクター」と呼ばれる立場だが、実情は常に本社に気を使う中間管理職である。

本社との軋轢や、単身赴任の寂しさが醸し出す、独特の憂いと色気。

それが絶妙に美女の心をくすぐっているようだが……

彼自身は、どうやら全くそれに無自覚なようで。

このシリーズの過去記事↓

「素敵な人だったんですね、ヒカルさんって。はふっ、はふっ。」

「百合子ちゃん、気をつけて、そんなにがっつくと喉に詰まるよ。そうだね、ヒカルちゃんは……常連だった人にしてみたら、マドンナを超えて、もう神様か仏様みたいな存在でさ」

「いますよねー、すぐ美人を神格化しちゃうオッサン!」

「ひ、ひどいな! オッサンにオッサンって言わないでよ」

ここ最近、やけにあの人を思い出すことが多かった。

かつて通い詰めたワインバーのオーナーで、フランス在住の日本人と結婚するからと言ってあっさり店を閉じてしまったあの女性、ヒカルちゃんだ。

あれから一度も連絡を取っていないし、特にこれといったきっかけがあったわけではないのだが、なぜかこのところやけに、彼女のことが頭にちらつく。

とは言え、フランスに嫁いだヒカルちゃん本人にコンタクトを取るわけにもいかず、俺はこんな時に頼りになるあの女性を呼び出した。

シンガポールでたくましく生き抜く女性、百合子ちゃんだ。湿っぽくならずにヒカルちゃんのことが話せる相手と言えば、彼女くらいしか思い浮かばなかった。

あらゆる男性とのデートをこなしてきた百合子ちゃんは、恐ろしく舌が肥えている。

しかし今日の店のチョイスには自信があった。

知る人ぞ知るモハメド・サルタンの名店、「黒家(くろや)」。黒毛和牛のうまいすき焼きやしゃぶしゃぶを、通も唸るセレクトのワインと共に楽しませてくれる名店だ。

彼女はここの人気メニュー、「特選黒毛和牛トマトすき焼き」がいたく気に入ったようで、さきほどからすごい勢いで頬張っていた。

確かに、和牛の上質な脂の甘みや、パーフェクトな割り下の風味に混じって届く、トマトのほのかな酸味……思わず止まらなくなってしまうのもわかる。

わかるのだが、絶品なので、もう少し味わって食べてくれると嬉しい気もしなくはない。

まぁ、まだ30代になりたての女性だし、そこを期待するのは酷というものか。

そんなことを考えているうちに、本日のもうひとつのメインが運ばれてきた。

「次のワインをお持ちしました」

「おお、来ましたか……Rindo!」

この店を選んだ理由は、もう一度このワインが飲みたくなったからでもある。

ナパ・バレーのカルトワインの中でも、最近特に存在感を放つワイナリーがこの「ケンゾー・エステイト」だ。

日本人であるカプコン創業者が、持てる情熱の全てを傾けて、巨額の投資の果てに作り上げたワイナリー。

そのクオリティは「ナパの奇跡」と呼び讃えられている。

人気ぶりだけを見れば、一本数十万円で取引されていてもおかしくないのだが、中間業者を省いているとかで、まだなんとか俺にも手が出る値段を保っていてくれていた。

とは言え、流通は限られていて、どこででも飲めるワインではない。

「佐野さん、これ、すごいワインなんですか?」

「すごいワインだよ!! ケンゾー・エステイトのフラッグシップワイン、Rindoだよ!!」

「どういう味なんですか?」

「……と、とにかく、美味しいんだよ! 飲めばわかる」

「へー」

今回お邪魔したお店はココ↓

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