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【Ep. 12】「今なら、キスをしても、きっと誰にも見られない……」と清香は言った

※この物語はフィクションです

いつも違う美女と肩を並べているところを、よく目撃されるこの男性。

彼は佐野隆(さのたかし)41歳、日系ITコンサル会社のシンガポール現地法人社長だ。

いわゆる「マネージングダイレクター」と呼ばれる立場だが、実情は常に本社に気を使う中間管理職である。

本社との軋轢や、単身赴任の寂しさが醸し出す、独特の憂いと色気。

それが絶妙に美女の心をくすぐっているようだが……

彼自身は、どうやら全くそれに無自覚なようで。

このシリーズの過去記事↓

「あのう……憶えてらっしゃいますか? “ミニシアター系映画の会”の、清香です」

突然かかってきた電話の主は、少しかすれた声でそう名乗った。

以前シンガポールに住んでいた友人が思いつきで始めた、「ミニシアター系映画の会」。

俺も何度か誘われて参加したことがあるが、参加者はいつも3、4人だった。

清香さんとは一度しかご一緒した記憶がないが、眼鏡の似合う知的な美女だったことを、鮮明に憶えている。

そもそもシンガポールにいわゆる“ミニシアター系”なんてものがあるのかと思うかもしれないが、実はとんでもなく良い雰囲気の映画館がひとつ、存在するのである。

The Projectorという名の、レトロな映画館。

俺もその会で連れて行かれて初めて知ったのだが、シンガポールにしては珍しくサブカルの匂いがする場所だった。

「ああ、清香さん! お久しぶりです。お元気でしたか?」

「私はお陰様で元気なのですが……」

「……が?」

「他のメンバーの皆さんが、ご帰国されてしまって。映画を観る仲間がいなくなってしまったんです」

「そうでしたか……」

「次の火曜に、LADY BIRDっていう、アメリカ映画の上映があるんですが、佐野さん、いかがですか?」

「いや、それが、俺……映画は、邦画か日本語字幕しかダメなんですよ」

「えっ、そうだったんですか!」

「ええ。ミニシアター系映画の会でも、邦画専門でして……」

「そうなんですね……」

電話の向こうの声が、明らかに落胆している。

でもよく考えてみれば、メンバーが全員帰国して寂しがっている女性に対し、こんなふうにすげなくお断りするのも残酷なことなのかもしれない。

英語がよくわからなくたって、勉強だと思ってご一緒するべきなのではないか……俺がそんなことを考え始めた時、彼女がはっきりとした声で、こう言った。

「では佐野さん、お茶にしましょう」

「え? あ、はい……」

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