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【Ep. 10】「あなたの足元に跪く瞬間が、私の至福でした」といずみは言った

※この物語はフィクションです

いつも違う美女と肩を並べているところを、よく目撃されるこの男性。

彼は佐野隆(さのたかし)41歳、日系ITコンサル会社のシンガポール現地法人社長だ。

いわゆる「マネージングダイレクター」と呼ばれる立場だが、実情は常に本社に気を使う中間管理職である。

本社との軋轢や、単身赴任の寂しさが醸し出す、独特の憂いと色気。

それが絶妙に美女の心をくすぐっているようだが……

彼自身は、どうやら全くそれに無自覚なようで。

このシリーズの過去記事↓

いずみとはじめて電話口で話した日のことを、今でもよく憶えている。

「あのう……すみません、男がネイルサロンって少し気恥ずかしくてですね。できれば、他の人があまりいない時間帯が良いのですが……」

そんなワガママを言った俺に、彼女は柔らかな声で 、こう申し出てくれた。

「でしたら、一番遅い時間帯にご予約をお取りしましょう。他の方と顔を合わせることが無いようにしますよ」

その声が底抜けに優しいのにどこか頼もしくて、なんて素敵な女性なのだろうと感じたのを、明確に憶えている。

男の俺がなぜいずみのネイルサロンに通うことになったかというと、それは「巻き爪」を直してもらうためだった。

あまりの痛みに対処法をネット検索したところ、なんとネイルサロンで巻き爪の矯正が可能だと知ったのだ。

早速シンガポールで巻き爪を直してくれるところを探し、彼女のネイルサロンがヒットした。

実際に会ってみた彼女は、小柄で華奢で品が良くて、守ってあげたくなるような線の細さが印象的だった。

しかし施術をしながらぽつぽつと話してくれる身の上話は、思いの外骨太で、この華奢な体のどこにそんな熱情が隠れているのかと、ドキドキしながら聞いていた。

シンガポールにやって来たのは5年前。

夫の赴任とともにやって来た、いわゆる「駐妻」であったこと。

夫は2年で任期満了となったが、自分はシンガポールを離れたくなかったため、離婚して一人でこの国に残ることにしたこと。

子供はいないこと。

シンガポールでの就職先が見つからなかったため、この店を一人で立ち上げて、2年半ほどになること……。

「独身時代にはネイルサロンで働いていたんですが、勘を取り戻すために一旦は日本に帰って修行しました。巻き爪矯正の技術も、その時に学んだんです。まさか自分が海外で起業するなんて、若い頃は想像もしてなかったですけど……芸は身を助けるというやつですね」

俺の足元に跪きながら、マスク越しに少しずつ話を聞かせてくれる彼女。

それは柔らかで暖かな時間だった。

いつしかこの、夜のネイルサロン通いが、単身赴任生活の楽しみのひとつになっていた。

しかし半年が過ぎた頃、俺の巻き爪はすっかりきれいに直ってしまい、彼女の元に通う理由がなくなってしまったのだ。

お礼とお別れを兼ねて俺は、何かご馳走しますと申し出た。

最初は遠慮していたいずみだが、最後には折れて、

「それじゃあ……鰻満のうなぎが食べたい、かな」

と、頰を赤らめながら言ってくれた。

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