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【Ep. 1】「居住歴と英語力って比例しないよね」とサエリは言った

※この物語はフィクションです

 

いつも違う美女と肩を並べているところを、よく目撃されるこの男性。

 

彼は佐野隆(さのたかし)41歳、日系ITコンサル会社のシンガポール現地法人社長だ。

 

いわゆる「マネージングダイレクター」と呼ばれる立場だが、実情は常に本社に気を使う中間管理職である。

 

本社との軋轢や、単身赴任の寂しさが醸し出す、独特の憂いと色気。

 

それが絶妙に美女の心をくすぐっているようだが……

 

彼自身は、どうやら全くそれに無自覚なようで。

 

 

 

_______

 

 

 

女性のマネージャーが珍しくないシンガポールだが、日系企業となると話は別だ。

 

シンガポールに赴任して来たばかりの頃、最大のクライアントである日系金融企業に挨拶に行ったのだが、まさかそこで女性マネージャーが出迎えてくれるとは思っていなかった。

 

しかもそれが男好きのする美女だったのだから、驚きはひとしおだった。

 

 

 

 

吉田さん……いや、サエリと呼ぼう。

 

サエリはいわゆる「女子アナ系」というやつだ。

 

 

 

栗色のミディアムヘアから覗く丸い額や、生まれつきとしか思えないバラ色の頬が、コンサバティブな美しさに絶妙なキュートさを足していた。

 

服装にこそ、日系金融ならではのおカタさがあるが、柔らかな表情がそれを見事に中和している。

 

独身時代だったら、真っ先にお嫁さん候補にカテゴライズしたに違いない。

 

 

 

それからほどなく、日本側の「やむを得ない事情」により、サエリの会社とは取引が中止になってしまったのだが……その頃からサエリは、ちょくちょくとプライベートの誘いをくれるようになった。

 

「これから私と会う時は、絶対サエリって呼んで」と言う彼女のリクエストに応え、呼び方も「吉田さん」から「サエリ」に変えた。

 

なんでも彼女はこのサエリという名前の響きを、非常に気に入っているらしく、プライベートの友人には必ずこう呼ばせるのだそうだ。

 

さん付けや、ちゃん付けさえ、許してはくれない。

 

 

 

しかしそこがサエリの不思議なところで、呼び捨てにするような仲になっても、どこか深く踏み込んではならないような、ノーブルな雰囲気があった。

 

お陰で今も、シンガポールに来る前に何をしていたかとか、なぜ女だてらにマネージャーを張っているのかとか、そういった深い事情は何も知らない。

 

「以前は、言えば誰もが知っている有力者の妻だった」という噂を聞いたことがあるが、離婚歴の有無さえ未だに訊いてみたことがなかった。

 

 

 

今夜の待ち合わせ場所であるZafferano Italian Restaurant & Loungeに着いた頃には、すっかり日が暮れていた。

 

キャンドルが揺れる店内をざっと見渡し、サエリを探す。

 

いつもなら先に着いている彼女だが、今日は珍しく俺の方が先に着いたようだ。

 

 

 

入り口で予約名を伝えると、マリーナベイサンズがちょうどよく見える席に通された。

 

100万ドルの夜景とは、きっとこんな景色のことを言うのだろう。

 

店側も心得たもので、店内は夜景が存分に楽しめる位のほの暗さに保たれている。

 

 

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