常夏のコスモポリタン・シティ、シンガポール。
恋が似合うこの街には、珠玉のラブストーリーの舞台としてふさわしい、数々のデートスポットが存在する。
しかし嘆くべきは昨今の「恋愛離れ」。
多くのシンガポール在住日本人が、恋やデートそのものに対する消極的な“めんどくささ”を持て余している。
そこでナイトライフシンガポール編集部は、この街にはびこる「デートめんどくさい症候群」を駆逐すべく立ち上がった!
(なるべくしがらみの少ない)男性読者を問答無用でおすすめデートスポットに連れ出し、在住者を代表して評価してもらうのがこの企画。
さらにはその評価と当日の写真を元に、あなたの恋心を刺激するショートストーリーを作成することとした。
リアルと妄想が交錯する半フィクションが、眠っていたデート欲を揺り起こす?!
マコトさんが、帰ってくる。
アメリカ出張に旅立ったのが、ちょうど3週間前。
マコトさんがついに、シンガポールに帰ってくる。
私、藤原香菜子ほど、この日を待ち望んでいた人間はいないと思う。
マコトさんは私がこのホテルチェーンに転職してきた時からの憧れの人だ。
あの頃はまだお互いに日本勤務で、マネージャー候補として入社した私のメンターが彼だった。
当時はまだマコトさんも30代半ばで、今よりもう少し線が細くて、そして……既婚者。
一目で素敵な人だと思ったけれど、好きになってはいけない人だからと、一生懸命に気持ちを押し殺したんだ。
だから1年前、マコトさんが私と同じシンガポール勤務になると聞いた時には、飛び上がるほど嬉しかった。
でもそれよりもっと嬉しかったのは、移動と同時期に、彼が独身に戻ったと聞いた時。
喜んじゃいけないのかもしれないけれど、私は有頂天だった。
ロマンスの神様どうもありがとう♪ という往年のヒットソングが脳内で爆音再生されたほどに。
ところが……
マコトさんときたら、ほとんど出張続きで、滅多にシンガポールにはいないんだもの。
私はいつしか、マコトさんの出張スケジュールを完全に暗記し、帰星の日を今か今かと待ち続けるのが癖になった。
「お帰りなさい、マコトさん!!!」
オフィスに彼の姿を見つけるなり、子犬のように駆け寄って挨拶してしまった。
くっきりとした二重の目が、優しく微笑み返してくれる。
「お、香菜子さん。ただいま」
「アメリカ出張、お疲れさまでした!」
「今回はそんなにタフじゃなかったよ。でも会議室にこもりっぱなしの時間が長かったから、少し体がなまってる感じはするかな」
日本にいた頃は、毎週末湘南でサーフィンばかりしていた彼。
シンガポールに来てからは出張続きで、なかなか海に行けないと嘆いていたから、そろそろ水が恋しいんだと思う。
私はついに、彼の出張中、何百回と練習してきた一言を口にする時が来たと悟った。
「あ、じゃあ、招待券たくさんもらったんで、アドベンチャーコーブ一緒に行きます?」
よし、100%ナチュラルな誘い方。
どこからどう見ても、”友達に招待券もらっちゃったんだよなーそう言えば、と思い出してる人”にしか見えないはず。
本当はそんなもの、持ってないんだけど。
ドキドキしながら彼の返答を待つ私の耳に届いたのは、心地よい彼のバリトンボイスではなく……耳障りな甲高い声だった。
「えー! アドベンチャーコーブ行くんですか〜? のぞみも行きたい♪」
出たな、坂本のぞみ27歳!
入社半年、うろちょろとマコトさんの周りをウロつく、小賢しい営業担当……!
「あ、あら、のぞみちゃんもアドベンチャーコーブに興味があるの?」
「ずっと行ってみたくて! マコトさん、のぞみも入れて〜」
「お、じゃあ、日本人スタッフみんなで行こうか」
「でも山田さんと森本さんは今、日本出張ですよ〜?」
「そうか、しばらく帰ってこないもんな。帰りを待ってたら俺もまた、次の出張が始まるし。じゃあとりあえず今週末、俺たち3人で行くとするか」
ちょちょちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉ〜!!
何してくれてんのよ坂本のぞみ〜!!!
私とマコトさんのデートに、首突っ込んでこないでよぉぉぉぉ〜!!!!!!!