※この記事は実際の取材を元にしたフィクションです。実在する人物・団体とは一切の関係がありません。
常夏のコスモポリタン・シティ、シンガポール。
恋が似合うこの街には、珠玉のラブストーリーの舞台としてふさわしい、数々のデートスポットが存在する。
しかし嘆くべきは昨今の「恋愛離れ」。
多くのシンガポール在住日本人が、恋やデートそのものに対する消極的な“めんどくささ”を持て余している。
そこでナイトライフシンガポール編集部は、この街にはびこる「デートめんどくさい症候群」を駆逐すべく立ち上がった!
(なるべくしがらみの少ない)男性読者を問答無用でおすすめデートスポットに連れ出し、在住者を代表して評価してもらうのがこの企画。
さらにはその評価と当日の写真を元に、あなたの恋心を刺激するショートストーリーを作成することとした。
リアルと妄想が交錯する半フィクションが、眠っていたデート欲を揺り起こす?!
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【妄想ショートストーリー】ジュエルと、咲子33歳<後編>
上村さんが渡してくれたペットボトルを手に持ったまま、私は、窓の外の景色を眺めていた。
シンガポールで過ごした一週間が走馬灯のように頭を駆け巡る。
「30過ぎたら、女は捨て身で行かなきゃ!玉砕覚悟で体当たりしてくるんだよ!」
事情を知っている、親友の真美はそんな風に私を叱咤激励してシンガポールに送り出してくれた。
きっと、上村さんは、昔の部下が旅行にくるなら使ってない部屋でも貸してやるか……くらいの軽い気持ちで、私を泊めてくれたんだと思う。
でも私は……正直ゲリラ兵のような気持ちで、この南の国に乗り込んできたんだ。
「そうですよ〜!これ、今日本でもなかなか手に入らないんですよ!でもめっちゃ美味しいんです。是非シンガポールで一緒に飲みたくて……」
正確にいうとお家で一緒に飲んで、上村さんを酔わせてしまおうと狙っていた私。
そして、酔った勢いで……なんとか既成事実を作ろうと思っていた。
だって、30過ぎたら女の戦い方はいつも玉砕覚悟。
一週間という限られた時間の中で、あのずっと憧れていた上村さんに女として認識されないと、まずは恋愛の土俵にも立てないではないか。
1日目の夜。
外で軽く晩御飯を食べた後、オーチャード駅にほど近い上村さんのコンドミニアムのリビングで、宅飲み二次会と称してこのとっておきのお酒を開けた。
「うわ〜っ!うまいな〜、この酒!こんな酒を持ってきてくれるとは、さすが佐竹、できるヤツだな!」
私の決死の作戦になど、つゆほども気づかない上村さんときたら、そんなことを言いながら日本酒をぐびぐびと飲み干す。
上司と部下という関係ではなくなったからこそ見える、上村さんのこんな姿。
白いTシャツに紺色の短パンでおちょこを持つ、リラックスした横顔。
でもそのこんがり焼けた腕や、40代とは思えないほど引き締まった身体。
笑うとクッと下がる目尻や、そこにかすかに浮かび上がる笑い皺が、こんなにも素敵だって……本人は気づいているんだろうか。
あの頃と変わらず……いやあの頃よりももっといい男になった上村さんが目の前にいる。
そんな私の気持ちに気づきもせずに
「あぁ、飲み過ぎたなぁ。てか酔っ払っちゃったよ……いや〜ごめん、明日も早いしちょっと寝るわ……」
そういいながら、11時前に彼は自分のベットルームひ引っ込んでしまった彼。
つまり私の捨て身の体当たり大作戦は、見事に失敗に終わってしまったのだった。
もちろんたった一度の作戦失敗で、凹むほど私もナイーブじゃない。
翌日には、趣向を変えた新しい作戦を考えたのだから。
それは
ーアロマオイルマッサージ作戦ー
2日目の朝、私は観光がてらアラブストリートまで出かけて、オーガニックのアロマオイルを購入した。
夜、仕事から帰ってきた上村さんに、疲れをとるとっておきのテクニックがあると言って、全身マッサージを施したのだ。
ここまでやると、「あざとい」を通り越して「必死な女」っていうレッテルを貼られてもしょうがないと思う。
そう、このマッサージ作成のおかげで、シンガポール滞在2日目にして、上村さんと私は、元上司と元部下の関係からの一線を超えたのだった。