常夏のコスモポリタン・シティ、シンガポール。
恋が似合うこの街には、珠玉のラブストーリーの舞台としてふさわしい、数々のデートスポットが存在する。
しかし嘆くべきは昨今の「恋愛離れ」。
多くのシンガポール在住日本人が、恋やデートそのものに対する消極的な“めんどくささ”を持て余している。
そこでナイトライフシンガポール編集部は、この街にはびこる「デートめんどくさい症候群」を駆逐すべく立ち上がった!
(なるべくしがらみの少ない)男性読者を問答無用でおすすめデートスポットに連れ出し、在住者を代表して評価してもらうのがこの企画。
さらにはその評価と当日の写真を元に、あなたの恋心を刺激するショートストーリーを作成することとした。
リアルと妄想が交錯する半フィクションが、眠っていたデート欲を揺り起こす?!
下調べの通り、パラワンビーチの端は人気が少なかった。
貸切とまではいかないけれど、十分な開放感。
いつもははしゃがないユウが嬉しそうに、波打ち際で写真を撮っている。
私はそんなユウを遠くから眺めながら、もしかしたら一生忘れない日になるかもしれないその光景を、しっかりと目に焼き付けた。
積み重ねてきた過去と、不確かな未来。
でも、今日という日は確かに今、このビーチで輝いている。
ビーチにいくつか点在する日除けの下に、マットを引いて食べ物を広げた。
さっそく好物に手を伸ばしたユウが、「うまいっ!」と声を上げる。
「さやかの料理、久しぶりに食べたな」
考えてみると確かにそうだった。
一緒に暮らし始めた頃は料理を作って待っていたけれど、そのうちそれが彼のお付き合いの支障になっていることに気づいてやめたのだ。
でも本当は、毎晩だって作ってあげたいんだ。
彼の負担にならないなら……の話、だけれど。
ただ並んで、海を眺める。
そのうち話題は思い出話へと変わっていった。
出会う前の、二人のこと。私もユウも妙に饒舌になって、とりとめもない話をただ紡いでいった。
不思議と、今現在の話はほとんどしなかった。
「私、子供の頃にね……」
「俺、大学の頃さ……」
もうずいぶん付き合っているのに、今まで話したことがない思い出話ばかり。
お互いにまだこんなにも知らないことがあったなんてと、驚いてしまう。
きっと他人が聞いても、全然面白くない話なんだろうな。
でも、ユウのことを知れるのが嬉しい。
私のことを知ってもらえるのが嬉しい。
やがて陽は傾いて、オレンジ色の光がビーチに差し込むようになった。